ど〇えもんの話(クアラルンプール)
ど〇えもん。ネコ型ロボットのあれではない。水面に浮かぶあれである。
あれと言っては失礼だな。水面に浮かぶあの、あのもおかしいな。どう形容していいか分からない。
とにかく、うまれてこのかた初めての経験なので、ちょっとショッキングだった。
クアラルンプール滞在最後の1日。ブキッ・ビンタンに出かけるモノレールの車窓。
KLセントラルから1駅すぎた所で、河原にたくさんの人だかり。ちょうどラマダンが始まる時期なので、なにかお祭り的なことが行われているのかと期待した。
でも皆、ただ立ちつくしたまま、川のある1点をただ黙って見つめているだけ。周囲と話をする様子も、笑顔もない。
なんとなく嫌な雰囲気というか、予感がした。これはお祭りなんかじゃない、ただの野次馬だ。しかも、気軽に言葉が発せられないくらいの。
車窓の景色が変わるのにあわせて角度を変えながら、皆の視線の先をおそるおそる追った。
土手から水面までは3メートルくらいの距離がある。
そこに、はしごを降ろそうとしている人がひとり、大きなあみを水面に降ろしている人がひとり、小学生くらいの男の子がひとり。
皆の視線の先にはこの3人の人がいて、そしてその3人の視線の先にひとり、4人目の人は、大きな網に捉えられて川面に伏せていた。
いや、それが果たして人だったかは分からない。大きく膨れ上がった紫色のシャツしか見えない。首から上も、下半身も、水の中。もしかしたら頭の部分は、わざと網で沈めて見えなくしていたのかも。
電車がその場を通過する、わずか十数秒のことだった。野次馬根性的には写真の1枚でも撮るのだろうが、とてもそんな気分にはなれない。ただ目をつぶって黙礼するのみだった。
ホテルの部屋の窓から。火事?
写真中央の道路の先に見える白い屋根が、KLセントラルから1駅目の「Tun Sambanthan」駅。この駅から乗り降りすることもあった。だからつまり、あの現場はホテルから歩いて行ける(窓から見える)距離にあった。
日本でも、水の事故は多く発生している。だから決して珍しいことではない。でも、40年間、一度もリアルでは遭遇したことがない。40年間遭遇しなかったことを、初めて訪れた旅先で見させられるとは、いったい何なんだろうか。どう解釈すればいいのかわからない。
この前日にはスリっぽい奴らに遭遇したし、街中には物乞いも多いので、通常であれば「こんな所、2度と来るか!」で正解と思う。でも、人の死とか、生き様とか、昔よりも深く考えさせられている今、ただ単に忌み嫌うのは違う気がする。
いや、ただ単に忌み嫌うほうが健全なのかもしれない。なんだか頭がごちゃごちゃ。よくわからないや。
貴重な体験をした。それだけは事実であり、理解している。その先のこたえは、そのうちにわかるだろうし、別にわかんなくても、どっちでもいい。
今回の経験でいま現在に確信していること、それは、
プールや海で「僕ど〇えもん」といってふざけるのは、やめといた方がいい。