午前4時の親切
ロンドンの時差ボケがまだ直らず、今朝も3時前に起きてしまう。
さて、こんな時間に起きてしまってどうしようかと、とりあえずネットを開く。
天気予報をみると、どうやら今日は荒れ模様とのこと。
おなかも空いたし、冷蔵庫は空だし、天気が荒れる前に、深夜のスーパーへ買い出しに。
歩いていけるところもあるが、なんとなくドライブがしたくなり、車を走らせる。
午前4時。まだ外は真っ暗。星も月もみえない。
お盆の、ましてこんな時間、道路はガラガラ。自然とスピードがあがってしまう。
こういう時に調子に乗っていると、赤いランプとサイレンを鳴らしたあのむかつく車に停められるので、そんな事態に見舞われぬよう、周囲やうしろを気にしつつ車を走らせる。
カーラジオからは、J-WAVEのロケットマンショー。ふかわさんたちのトークが笑いをさそい、ついついスピードがあがってしまう。
バックミラーにヘッドライトが1つ、小さく光る。バイクか。白バイかもしれん。
アクセルをゆるめて様子をうかがう。だんだんと近づくヘッドライト。でもまだうしろが誰なのか、夜中なので見分けがつかない。
とうとう追いつかれる。どうやら白バイではなさそう。安堵と同時に別の不安がよぎる。夏になると出没する、尾崎豊の「15の夜」を実践している坊や。こんな夜中にバイクを走らせているなんて、どうせろくな奴じゃないと、警戒する。しかも、頭が2つ見える。ニケツか。ますます警戒する。
スピードを更に落とし、そして抜かれやすいように左側を大きく開けた。
すると、私のことを抜くわけでもなく、やつも減速し、しかも、なにやら手を伸ばして私の車を触ろうとしている。こりゃ、完全にヤバイやつだ!アクセルを踏み込んでバイクを引き離す。
しかし、前方の信号は、無情にも黄色から赤に変わった。…Oh~Shit !
停止線で車を停める。バックミラーで様子をうかがう。
なぜかバイクは後方で停まらない!
私のすぐよこに来た!!…Oh My God !!
真夜中なのにサングラス。ヘルメットはかぶっていない(三輪バイクだったのでノーヘルOK)。「タイガー&ドラゴン」を歌っていたあの人に似ている。
そのひとが、「オレの話をきけ~」とばかりに、窓をおろせとジェスチャーし、何かしゃべっている。
いやーやばいわー。流血騒ぎとかしたい気分じゃないのにー。おなかもぺこぺこだしー。2対1かよー。いやだー開けたくないよー。
でもしかたない。覚悟をきめて、窓をおろす。
「フタ、ガソリン、ノトコノ、アイテルヨ」
「・・・・」
一瞬。ほんの一瞬のあいだだったが、あたまが真っ白に。
い、いま、な、なにが起きてんだ!?
ものすごい速さで、ことの状況を整理する。そして、とりあえず、
「アリガトウゴザイマス」と、
笑顔のつもりだが、そうとうに微妙な表情で声を絞り出す。
なんでおれも片言なんだ?と自問しているあいだに、ジローラモ(仮)は颯爽と走り去っていった。
しばらく混乱はつづき、動揺は窓を開ける前よりも、むしろ増している。
どうやら私、さっき寄ったスタンド(セルフ)で、ガソリンタンクのふたを閉め忘れていた模様。それをジローラモ(仮)は親切に教えてくれたみたいで、走りながら手を伸ばしたのも、それを閉めようとしてくれたみたい。
片言の日本語。外人さんだった。横山剣でなく、ジローラモな人だった。
午前4時。こんな時間に親切に出会えるなんて、思ってもいなかった。
先日の私の親切が、もう廻ってきたのかな? サイクル早いな。
先日も親切をしてどっと疲れたが、今日も親切されたのにどっと疲れた。
「人は見た目が9割」なんて本があるが、のこりの1割を大切にしようときめた、日曜の朝でした。