八雲の国から末広がり

旧八祐会ブログ

母と息子

「お前のしたことを、おれは絶対に許さない」

妻を亡くし、応急処置もできていない剥き出しな、赤々とした心の傷口に、容赦ない言葉の刃が飛び込んできた。

その人は酔っぱらっていた。

私は何もできなかった。傷口を庇うことも、反撃して一矢報いることも、傷口を止血することも、何もできなかった。

 

客観的にみたら、そりゃあ、私のしたことは酷いことなのかもしれない。

母に対して私がしたことは。

でも、私とて、ただ憎しなだけでしたわけではない。

私なりに大切なものを「守る」ために、覚悟をもってあえてしたことだったのに。

そしてそれが、母をも守ることだったのに。

 

なにも知らないただの酔っ払いに、なんでそこまで言われなければならないんだろうか。

「おれはお前のお母さんを、自分の母同然と思っている」

たしかそんなようなことも言ってた気がする。心の中で「で?」って返事した気もする。

 

 

血がつながっている実の親子。で?だからなに?それがどうしたの?

どうすれば世間様は許してくれるの?

 

新盆に水漏れ騒ぎを起こしてしまった時、私は出張先だったので母に助けてもらった。非常に感謝している。母は妻に感謝していた。

お礼の意味も込めて、母を旅行に招待した。そこで母の終活案を聞いた。後のことを託された。私は了承した。母より先には逝けなくなった。

 

旅先ではずっと、母へのお土産は欠かさず買っている。

毎年母の日には花を贈っている。

母が還暦の時には、赤いタイシルクのブラウスをプレゼントした。ラッフルズホテルにある店のなので、めちゃ高かった。

今日は母の誕生日。これから花とケーキを買って、実家に顔をだそうかと思っている。

私はそんなに酷い息子でしょうか?

 

母と妻を天秤にかけられて、妻を選んだ私は、そんなに酷い息子なのでしょうか?

 

今の私だったら、あなたの言葉も防げるでしょう。あの時よりは傷口のかさぶたは厚くなっているので。

でもあの時の、あなたに傷つけられたあの傷は、もう一生消えることはない。

時々痛み、時々怒りに震えるが、私にはどうすることもできない。

 

お前になにがわかるんだ?私の、私らのなにがわかるんだ?あ?

 

 

あなたがこのブログにたどり着かないことを願っている。