NYC
成田空港で出迎えた時、満面の笑みで「楽しかった♪」と彼女は言った。
妻がニューヨークを気に入ったのは、意外だった。
私もまだ行ったことがなかったので勝手なイメージだが、コンクリートだらけで、人がいっぱいのところなのに、そういう所が苦手なひとだから「1回行ったからもういいや」って言うと思ってた。意外だった。
だから私もニューヨークに行ってみたくなった。
翌年、私はひとり、ニューヨークに行った。
1番の目的は、ティファニーの本店で、スイートテンダイヤモンドのリングを買うこと。
出会ってからはとっくに10年以上経ってたが、結婚してからはちょうど10年目だったので。
うちは、仕事も財布もぜんぶ一緒だから、お金の工面に苦労した。たいした額じゃないけれども、値札付きでプレゼントを渡すのは、やっぱかっこわるいからね。
そうそう、指輪って、号数で値段がまったく違うんだね。見本でみせてくれた号数のと、実際のサイズでの値段が違ってて、びっくらこいた。
まあ、よく考えたら、ダイヤの数がそのぶん増えるんだから、当たり前なんだけどね。
黒い指輪ケースの中でキラキラと光り輝く指輪をみせられたら、予算をオーバーしたことなんか、もうどうでもよくなっちゃった。
水色の小袋を片手に、セントレジスのキングコールバーへと向かう。
戦利品をつまみに、レッドスナッパーを飲む。至福の時だった。
これでようやく、ニューヨークと対等になれた気がした。
彼女は、ニューヨークへは、2度行った。
最後にセントレジスに泊らせてあげれたのが、私にとってせめてもの慰めになっている。
今年、ニューヨークに行ってくる。
でもキングコールバーに入る勇気は、まだない。