遠い太鼓
巻末を見ると、2009年6月1日第40刷発行と書かれている。つまり僕はこの本を読み終えるのに5年かかったわけで、いつからスーツケースに入れているのか分からないが、ベアトリックスオングのグローブトロッターを買ったのもちょうどこの年だから、その時から入れていたとすると、僕らはこの5年間ずっと一緒に旅していたことになる。
今この5年間を振り返ってみて、それは永遠ほど遠くもあり、昨日のように近くもある。
この本を開いたのは1年ぶりだが、もっと早くに開いていたら、ローマには決して行かなかっただろう。またローマでこの本を開かなくてよかった。
でもローマへ行ってみたいと思ったきっかけに、この本の影響は間違いなくあった。だが僕はこの本の中のローマを湾曲して記憶していたようで、他人の不幸の蜜の味のその甘さだけを記憶してしまった。いざ自分の身に降りかかったらこんなにも苦いのに。知らず知らずエスプレッソに大量の砂糖を入れていたようだ。でもローマという街は、ドルチェの甘さとエスプレッソの苦味が絶妙に絡み合っている街だった。
僕は今、ギリシャではないが、地中海の島に来ている。それもこの本の影響だろうか。いつつけたのか分からないドッグイアのページを開いたらなにか分かるのかな。あるいはパエジャを食べたら分かるのか。ああ、腹へった。腹の太鼓が鳴っている。